大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3084号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告がつぎの特許発明の特許権者であることは当事者間に争いがない。
名称 遊戯場装置
特許番号 第四五七九七二号
出願 昭和三八年二月二一日
出願公告 昭和四〇年四月一六日(昭四〇―七五四七)
登録 昭和四〇年一〇月二〇日
特許請求の範囲 「本文に詳記したように、所定の広さの遊戯広場に適宣数の原動機付自走車を収容し、この遊戯広場内を管制する発振管制装置を適宣個所に設けるとともに、各原動機付自走車には発振管制装置により無線的に原動機の駆動および停止を行わせる駆動管制装置をそれぞれ備え、かつ各自走車にはこの駆動管制装置とは別に原動機の駆動速度を搭乗者の任意に変更できる速度変換装置を備え、原動機付自走車は発振管制装置の発振する所定の周波数指令により駆動管制装置を作動せしめられて一せいに発進、進行または停止を行わしめられ、さらに各自走車は進行中発振管制装置の指令とは無関係に速度を任意に変更できるようにしたことを特徴とする遊戯場装置。」
二、被告がかつて(イ)号物件を業として製造販売したことがあることは当事者間に争いがない。
三、そこで、(イ)号物件が本件特許発明の遊戯場装置の生産にのみ使用するものに該当するかどうかを検討する。
本件特許公報所掲発明の詳細な説明中の「本発明においては、……原動機付自走車9は指令室5等に設けた発振管制装置によつて一せいに発進、進行および停止を行うように管制され、発振管制装置よりの無線的管制なくしては発進も停止も行うことができない……、」、「各原動機付自走車9には発振管制装置により無線的に原動機の駆動および停止を行わせる駆動管制装置20とは別に原動機の駆動速度を搭乗者の任意に制御変更できる速度変換装置23を設けてあるので、自走車9が走行している間搭乗者の自由意志によつて走行速度を速くも遅くも自由に変換できて一層面白味を増し遊戯効果を増大せしめるものである。」および「そして本発明では、原動機付自走車9として従来のモーター駆動遊戯車の形式を採用した場合でも、従来のものにおいてモーターの回転停止を司どる足踏スイッチに代えて同じ場所に速度変換装置23を設け、かつ駆動管制装置20を増設搭載すれば足り、……従来の遊戯車を大幅に改造することなく僅かな設計変更または改造によりそのまま使用し得るものであり、……」なる記載ならびに特許請求の範囲中の「……各自走車にはこの駆動管制装置とは別に原動機の駆動速度を搭乗者の任意に変更できる速度変換装置を備え、原動機付自走車は発振管制装置の発振する所定の周波数指令により駆動管制装置を作動せしめられて一せいに発進、進行または停止を行わしめられ、さらに各自走車は進行中発振管制装置の指令とは無関係に速度を任意に変更できるようにしたことを特徴とする」なる記載を総合して考えると、本件特許発明の遊戯場装置を構成する原動機付自走車は発進後その進行中の段階において搭乗者がその速度を任意に変更できる速度変換装置を備えること、すなわち進行中発進管制装置の指令とは無関係に搭乗者がその速度を任意に変更できる機構を具備していることを必須の構成要素としているものであることが明らかである。
原告は本件特許発明にいわゆる速度変更は速度零の停止状態から最高速度に至まるでの任意の速度変更を任意に選択し得ることを意味しているから、発進および停止も速度の変更に該当する旨主張するが、本件特許発明にいわゆる原動機付自走車は発進および停止を発振管制装置および駆動管制装置によつて強制的に管制し、その外に右により強制的に管制される発進と停止との間、すなわち進行中の段階においては右管制装置に影響されない速度変換装置によつて搭乗者の自由意思に基づき速度を変更できる機構を備える構成としたものであることは右に判示したところにより明らかであるから、本件特許発明にいわゆる速度変更に発進および停止が含まれないことは明白である。
そして、(イ)号物件のモーター付自走車は発信機から各自走車の受信機へ無線電波信号を発振すると発進可能の状態におかれるがそれだけでは発進せず、搭乗者が足踏スイッチを踏むことによつて発進し、右スイッチを踏み続けることによつて一定速度(時速3.5粁)で進行を継続し、足を放して足踏スイッチが開放されると停止する機構になつているのみであつて、右以外に発進後進行中の段階において搭乗者が任意にその進行速度を変更するための速度変換装置を備えていないことは原告も自認するところである。
してみると、(イ)号物件のモーター付自走車は本件特許発明の遊戯場装置を構成する原動機付自走車の必須の構成要素である発進後その進行中の段階において搭乗者がその速度を任意に変更できる速度変換装置を備えておらず、進行中発振管制装置の指令とは無関係に搭乗者がその速度を任意に変更できる機構を欠如していることが明らかである。
なお、原告は、(イ)号物件のモーター付自走車に設置された足踏スイッチは、その開閉による自走車の発進、進行、停止、再発進等の繰り返しにより走行速度の調節を行うことが可能であるから、速度変換装置の機能を有する装置に該当する旨主張する。しかし、冒頭摘記の発明の詳細な説明ならびに特許請求の範囲の各記載を総合して考えると、本件特許発明にいう「速度変換装置」とは、速度変更を本来の目的とし、その目的に副つた作用効果を奏する装置を指称することが明らかである。(イ)号物件のモーター付自走車に設置された足踏スイッチは、発進装置から発せられる電波を自走車の受信装置により受信し、原動機が駆動可能な状態に置かれた後、これを踏むことにより閉路し自走車を発進せしめ、これを離すことにより開路して自走車の進行を停止せしめる機能を果さしめることを目的として設置されているものであり、その目的からして、これを本件特許発明にいう「速度変換装置」に該当しないことは多言を要しないことである。また乗客が足踏スイッチを弄び、その開閉切換操作を機敏に反覆して行い、よつて自走車の発進直後、停止直前等の間に進行速度に変化を生ぜしめたとしても、この偶発的現象を本件特許発明が意図した自走車の進行中における速度の任意変更と同一視することは到底できないから、足踏スイッチが本件特許発明にいう「速度変換装置」と同一機能を有する機構であるとは認められない。したがつて、右両者を設計上の微差ないし均等であるとする原告の主張は採用することができない。
四、そうすると、被告の製造、販売にかかる(イ)号物件のモーター付自走車は本件特許発明を構成する原動機付自走車に関する前記必須の構成要素を欠如しているから、(イ)号物件が本件特許発明の遊戯場装置の生産にのみ使用するものに該当しないことはいうまでもない。したがつて、被告が(イ)号物件を製造、販売する行為はなんら本件特許権を侵害するものではないから、侵害することを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却し、主文のとおり判決する。
(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)